ロアン・リンユィ 阮玲玉(Center Stage)


スタンリー・クワン監督、マギー・チャン主演の香港映画。日本ではあまり知られていないが、これは映画史上に残る傑作だ。

1935年に25歳の若さで自殺した、1930年代の大女優・阮玲玉(ロアン・リンユィ)についての伝記映画だが、複雑な構成をもつ。マギー・チャンが阮玲玉を演じる劇映画部分、実際に阮玲玉が出演した映画の歴史的かつ貴重な映像、さらに、阮玲玉を知る人々へのインタビューなどを織り交ぜることによって、彼女の人生を再構成していく。



阮玲玉は一時スターになったものの、私生活のスキャンダルにより、転落していく。だがそれでも彼女は演技を続けていく。やがて、彼女の私生活での事件と、彼女が演じる役とが交差し、彼女は自らが一度リアルに生きた出来事をもう一度演技として生き直すことになる。

映画の中では、人生に絶望して自殺したのだろう、みたいなことが語られるが、この映画で観客が観るのは明らかにそれ以上のなにかだ。それは、生きることと演じることのうちにある秘密だ。人は、強烈な出来事を一回目生で生きるより、二回目それをフィクションとして体験するときに、より強烈な感情に襲われる。それは時にあまりに強烈で、耐えがたい。

この映画で描かれているのは、ただある伝記的な話でも、ただある女性の人生でもない。期せずしてこの映画は、一回きりのものとして行きられる人生の先にある、映画や演劇、つまり芸術の本質に触れている。

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