War horse(戦火の馬)

War horse。スティーヴン・スピルバーグによる傑作がまた一つ生まれた。馬と戦争、そして意外なドラマ。

これはロンドンで今でも上映されているミュージカルが元になっていて、ところどころでとても演劇的な演出がされているのはこの原作を尊重しているからだ。舞台についてはこちらを参照。もっとも、このミュージカル自体もマイケル・モーパーゴの『戦火の馬』という小説が元になっている。



これだけ元になっている作品がすでにあるから、脚本の完成度はとても高い。馬の話っていうと単純そうに思えるけど、そうじゃなくて、よくこれだけ複雑にできたなっていうくらい、いろんなエピソードがある。ジョーイと名付けられた馬はその役割をいろいろと変えながらも、まさに時代の生き証人となって、私たちを過酷な時代と、そこで繰り広げられる様々なドラマに誘ってくれる。



スピルバーグの演出はこれでもか、というくらい上手い。戦争のシーンなんかを撮らせたらこの人くらい上手い人はいない。ドラマのシーンでは、あんまりしつこくなく、むしろ淡々としていてこれもよい。最後のシーンだけは例外だが・・・・。これ一本で『プライベートライアン』と『太陽の帝国』が楽しめる。ちょっと違うか。

馬のデッサンを描くニコルズ少尉役のトム・ヒドルストンや、ステュアート少佐役のベネディクト・カンバーバッチなど、脇をかためる俳優も豪華で、自然な演技。ただし、おじいさん役のフランス人俳優、ニエル・アレストリュプにはちょっとやりすぎな感も・・・。その孫娘役のベルギー娘、Celine Buckensは超かわいい。彼女へのインタヴューもある。

この映画の白眉はやはり物語終盤の二つのエピソードだろう。ここまで積み上げてきものがあるだけに、もはや言葉はいらない、というその演出がまたにくい。ここで、奇跡的な偶然を目の当たりにする二人の脇役たちがよい。というか、その描き方がとてもよい。状況を見、そしてすべてを理解する彼らに、自然とその偶然への畏敬の念がわいてくる。と、いうより、第一次大戦という想像を絶する非人間的なすさまじい出来事のただなかに、生きているということそのこと自体を尊く思える、そんな出来事が入ってくる。そのことにこの二人は気づき、その出来事そのものへの敬意を抱くのだ。うまくいえないけれど、そうした瞬間というのは、私たちの誰にでも訪れうるものだ。この映画は、それを見事に描いた、希有な作品だとぼくは思う。

興味がある人は、監督へのインタビューを見ると良。

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